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showcase #6 ”引用の物語 Storytelling”

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showcase #6
 引用の物語 Storytelling”
curated by minoru shimizu

サジ  三田健志

2017年5月5日(金)—5月28日(日)
会期中 金・土・日 12:00-18:00 開廊
オープニングレセプション:5月5日(金)18:00-20:00
アポイントメント 承ります

 

2017年5月、eN artsでは、清水穣氏のキュレーションによります、写真に特化したグ ループ展 “showcase #6-引用の物語” を開催いたします。展覧会のタイトルが示す通り、 現代若手写真家の「ショーケース」となるこの展覧会は2012年からスタートし、今回で シリーズ六回目となります。

Showcase #6 のテーマは「引用の物語」です。金、三田の両氏の作品から紡ぎ出され る物語をお楽しみ下さい。

eN arts

*Press Release

showcase #6 – 引用の物語

第6回目showcaseのテーマは、写真における「語り narrative」です。

写真は言葉に対して無防備であるがゆえに、絶対的に中立的です。どんな平凡な風景写 真でも、「暴走事故で幼い命が犠牲になった場所」・・・などと書き添えれば、その平凡さ こそが切ないオーラとなって写真を覆うでしょう。ありきたりの人物写真、でも「撮影 時すでに末期癌だった」・・・などと聞けば見えるはずもない運命の予兆をその表情の上に 探してしまう。しかし、後付けの物語は写真の見方には影響しても、写真自体を変化さ せはしません。写真が言葉に染まることはなく、写真は饒舌な語り部の道具にはならな いのです。

他方で、風景写真であれ人物写真であれ、ただ見ているだけでさまざまな連想が浮かんで、断片的な物語を次々と招き寄せるような写真が存在します。物語は外から写真に付 け加えられるのではなく、写真のなかの豊かな細部が、写真を見る私たちの記憶や経験 を刺激して、物語を引き出すのです。

様々なところから、既視感のあるモチーフを引いてきて組み合わせることで、「narrative」 な写真を展開する作家のなかから、異なる二つの才能として、今回は金サジと三田健志 を選びました。

金サジ(1981-)は 2016 年度キヤノン写真新世紀グランプリ受賞。受賞作「STORY」 のシリーズは、ホルバインを思わせる精緻で美しい細部に満ちた、広い意味で —つまり人間に限定されない— 肖像作品です。そのフォーマットは常に「対峙」であり、被 写体と写真家は正対しています。

どこか単一の民族や人種や国家、なにか純粋な神話や伝統といった、帰るべき本来性の 場所を、私たちは、よほど歴史に無知で素朴でも無い限り、信じることができません。 そういう現代社会において、金はあえて、擬似的に宗教、儀式、土俗性、民族性、風土 といった本来性の場所を連想させる断片的なモチーフを巧みに組み合わせて新しい神話 を紡ぎます。それは、もはや帰るべき場所をもたない者が、これから帰る場所なのかも 知れません。帰属意識とは異なる、たった一人のアイデンティティの探求であるのかも 知れません。

本展では、この「STORY」と、それを準備したスナップショットのシリーズを展示し ます。

三田健志(1979-)は 2015 年度キヤノン写真新世紀優秀賞(清水穣選)。大自然の美し い風景写真は、よく見ると奇妙な細部を備えています。三田は、インターネット上で入 手可能な大自然のイメージをプリントアウトし、それを画像の凹凸に合わせて実際に折 り曲げ、そうして作られた立体的風景を舞台の書き割りのように見なして、そこへさら に別のイメージ —旅行者、冒険家— を挿入し、全体を1つの風景写真として再撮影し ます。

私たちは、旅行者/冒険家として設定された視点を通じて、借りてきた風景の中に入り 込みます。三田の基本フォーマットは従って「追跡」です。グーグルアースのなかの仮 想旅行のように、私たちは旅行者/冒険家の後を追って、あらゆるストリートに軽々と 降り立ち、360 度の風景を楽しむわけです。

他方で、作者は紙の縁を見せたり奇妙なアングルを選択したりして、それが擬似的な旅 行であることを露呈させます。ネット上に溢れるイメージの大洋で視覚的に溺れながらも、醒めきった冒険家は、どこか、本当に降り立つことのできる場所を探し続けているのです。

2017年5月 清水 穣

清水 穣(しみずみのる) 写真評論家。定期的にBT 美術手帖、Art It といった雑誌やWeb、写真集、美術館カタログに批評を掲載。主な著書に『写真と日々』『日々是写真』『プルラモン 単数にして 複数の存在』(現代思潮新社/2006 年、2009 年、2011 年)など。

金サジ
金

金サジ 「物語」シリーズより「舟」 2017年 デジタルプリント出力 ©金サジ

私の身体に先祖の体験してきた記憶が残っているのではないかと感じることがあります。 様々な民族の伝承(歌、舞、語りなど)を体験したときに、デジャブのような感覚を覚えることが多い ためです。

そういった記憶とも思える不思議な感覚と、今まで生きてきた私の確かと思える記憶が重なった時に、 ひとつの物語が現れてきます。

私はこの物語に向き合う事で、自分にとっての「故郷」とは何なのかを考え続けています。

*金サジ CV

三田 健志
三田

三田 健志「On the contour line」 2017年 デジタルプリント CC BY-SA Takeshi Mita

私はこれまで「経験」を巡るいくつかの問題に関心を持ちながら制作を続けてきました。近年は冒険 家をモチーフとした作品を中心に発表しています。冒険家とは、自らの経験を他者へ開こうとする存 在です。彼/彼女らは時に自らの身体を過酷な環境に晒しながら「世界」と「わたくし」の間に特別 な関係を築こうとします。その結びつき方は実に様々ですが、なかでも私が好んで採りあげてきたの は、自らの経験と他者の経験とを等しく渡り歩くような仕方で旅を続けた人物です。

冒険という言葉の内には、世界が不可知であること、あるいは世界に未知が残されていることへの期 待が折り畳まれています。本展では、そうした「未知」を他者の経験の内に見出そうとしたある写真 家の旅を辿る形式の作品を発表します。

展示作品の多くは、世界中からアップされた改変・商用利用可能な画像を使用して制作したものです。 画像共有サイトのアーカイヴで複数のタグを辿りながら画像を収集し、それらをプリントした後にカ メラで撮影しています。そこで私が写し出そうとしているものは、かつて世界に投げかけられた誰か の眼差しであり、歪んだ写真用紙であり、微かに生まれつつある世界の新しい奥行きです。こうした プロセスを通して、アーカイヴが見ている今日の私たちの経験と眼差しを描き出そうとしています。

*三田健志 CV