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この世界の覚え方

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光島さんに自分の車を運転してもらう-01

「この世界の覚え方」
今村 遼佑 個展

2025年11月1日(土)- 11月30日(日)
会期中 金・土・日 12:00 – 18:00 開廊
アポイントメント承ります

グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」では、森の奥に連れていかれた兄妹が家に戻るための目印として、パンの欠片を残していきます。ウェブサイトにおいて、現在ページの位置を示す「パンくずリスト」の名称はここに由来していますが、童話の中ではパンくずは鳥たちが食べてしまって跡形もなく消えてしまいます。このあやふやで儚い道しるべの残し方に惹かれてしまいます。そこには、あやふやさだけではなく、あるいはあやふやであるがために、強い切実さを感じるからです。
切実さの種類はだいぶ違うのですが(命の危機があるわけではない)、私の表現もこの世界の出来事を覚えておきたいという欲求からきています。今回の展覧会では、これまでの継続したテーマとして、世界の中で不確かに消え去ってしまう光景や音、あるいは手触りをとどめようとする作品群とともに、近年取り組むアーティスト・光島貴之さんとの「感覚の交換」をテーマとした共同プロジェクトから、自分の車を彼に運転してもらうという試みを記録した映像作品も展示します。

                         今村 遼佑

今村氏は、日常の中にあるささやかな出来事や記憶を題材とし、日用品など身近な素材を用いて、映像・立体・絵画・インスタレーションといった多様な技法で表現を行っている。作品には、くちなしや金木犀、ジャスミンといった香り豊かな植物がたびたび登場し、観る者の嗅覚や記憶を喚起する点も特徴である。
過去にeN artsで開催された展覧会(2018年11月)では、会期中に会場周辺で甘い香りが漂い、作品による演出と錯覚するような体験があった。実際には隣家の庭に咲く柊の香りであったが、このように今村氏の作品は、観る者の日常感覚を鋭敏にし、普段は意識に上らない光景や匂いを新たな意味を持つものとして浮かび上がらせる。また、庭先に落ちていたガラス片を作品の一部と錯覚するなど、日常の些細な事象が作品と呼応するような感覚も・・・こうした体験は、記録だけでは残しにくい感覚的な記憶を刺激し、鑑賞者に新たな気づきを与えるものである。
本展は、2018年に開催された個展「そこで、そこでない場所を」以来、7年ぶりとなるeN artsでの個展である。作家・光島貴之氏との協働プロジェクト映像をはじめ、会場でしか体験できない作品が展示される予定である。ご来場者のお客様には五感を通じて、記録を超えた感覚の記憶を追体験いただきたいと願う。

桑原 暢子 | eN arts

*Press Release
*CV

-出展作品-

-展示風景-