eN arts

法貴信也 個展

3

dm_tate_omote
法貴 信也 個展

2022年11月4日(金)- 11月27日(日)
会期中 金・土・日 12:00-18:00
アポイントメント承ります

Courtesy of Taka Ishii Gallery

11月4日 金曜日より、eN artsにおいて 7年ぶりとなります「法貴 信也 個展」を開催致します。

かつて黒色の分解色である濃紺と赤茶の二色の線で独自の表現をしていた法貴氏は、2015年に弊廊で開催された個展で「汚れ」「白の言語化」等の要素を絵画に組み込み結実させた新作を発表し、フレッシュな驚きを与えてくれました。詳細は http://en-arts.com/portfolios/nobuya-hoki-exhibition/ をご参照下さい。

法貴作品が次なるステージへと発展していくことを期待させてくれる本展のハイライトは、初公開となる 和紙(画仙紙)に墨液を使って描いた作品。これらはキャンヴァスに油彩をのせてゆく西洋的ペインティングとは異なり、彼が予々考えてきた「染み込む画地に描くこと」を具現化した作品だと言えましょう。また法貴氏の作品は制作時、上下に筆を運ぶという身体的連動性により圧倒的に縦位置のものが多いのですが、本展では縦作品を連ねて横作品としてみせる という新たな試みにもチャレンジします。今までとは異なる法貴信也の世界をお楽しみ下さい。(法貴氏による展示作品概要は次頁を御参照下さい。)

最後になりましたが、本展開催にあたりご協力いただきました Taka Ishii Gallery に心より感謝致します。

ロウ直美|eN arts

 12年までの個展ではいわゆるタブローと呼ばれるキャンバスに油彩の作品と同時に紙に描いた作品を両方展示することが殆どでしたが、以降は油彩だけを展示するようになり、その間つくっていた紙の作品をみせる機会をもたないまま気づくと10年が過ぎていました。
そこで今回の展示では17年あたり比較的集中的に描いていた紙の作品と21年の冬に描いていた画仙紙に墨液の作品を中心に発表することにしました。但し17年の方は、画地は紙でも描画材はアクリルや水彩といった紙と馴染みのあるものではなく油彩やエッグテンペラなどの脂分を含んだものをサイジングした紙の上に展開したものが多いです。

17年あたりの作品群の方は異なる考えを検証するためにおこなったいくつかのシリーズから選んだものであるためシリーズをまたぐ一貫したテーマはありませんが、「筆に含ませた描画材を過不足なく画地にのせれば考えていることが作品として実現する」という筆を巧みに使いましょうという考えについて再検証するためのアプローチという点で共通したものがあります。

一方21年の作品は、染み込む画地の伝統の中で培われたため拭いきれない私自身が持つカタチやフォルムの生成について改めて考えるためのものです。水墨や書のように描画材を画地に染み込ませて描く東アジアの伝統の中で誤りのキャンセルや不足部分の描き足しは失敗した箇所としてはっきり画面に記録されてしまいます。更にいえば東アジアの画地とはつまり描画材がのっていない生の素材としてまさに地そのものであることが殆どであるため、失敗を白などで塗りつぶしても地自体に白が塗ってあるわけではないため、そうした描き直しが”バレて”しまいます。この二つの理由から東アジアでは画地上で図(や描画材)を動かすことなく仕上げるためのトレーニングと洗練という美意識が絵を描く上で支配的となり、一方油彩という伝統がある地域では地に塗料が染み込まないので失敗したところは拭き取りやすいのに加え、そもそもその地自体が板や麻布といったむき出しの素材でなく既に描画材と同じ種類の塗料が塗ってあるものだということで失敗した箇所が乾いて拭き取れなくなってもその上への塗り直しが効くという二段構えの失敗対策があるため、それぞれの素材特性の違いの中で育った造形を進めるための手順や美意識はかなり違うものとして発展していったと考えています。

21年の紙に墨液という素材を使っての作品制作ではこのことについてさらに考えを進めていきたいと思って取り組んでいました。失敗が消せないということについて更にいえば、紙に色鉛筆の絵から数年ぶりで油彩を再開した2001年頃から頭のどこかにあり、そこから約10年が経つ2010年までは油彩なので失敗したところは直そうと思えばバレないように直せるにも関わらず絶対修正しないというスタンスをとることにしていました。そしてそれ以降は汚れという失敗を画面上に許容することで地のあり方を考えるようになり、それが更に汚れと図(線)と地という三すくみ(じゃんけん)という形で読み替えるようになって以降も、「染み込む画材とそうでない画材で育ったエステティック」という考えは繰り返し自身の中で立ち上がってくるもので、その後は油彩による図と地と汚れの関係をしばらく追っていたのですが21年の画仙紙に墨液のシリーズでは画材的にも描き直しが顕著に現れる描画材を改めて使うことでこの関係について考えてみたいと思ったものでした。

また、21年のシリーズについては画地の特質によるこうした考察とは別の意味で自身にとって新たで大切な試みがありました。それは油彩ではここ何十年も縦長の絵しか描いておらず、数年前から描いてみようと思っていた横長となる作品についても考えるものとなっています。横長の絵とは縦長の絵を一つの単位としてその展開と併置とによって成立するという考え方が私自身の中にあり、まずはその考えをリテラルに手順とすることで、横長の絵の成立について考えてみた試みとなります。

法貴 信也
2022年10月

*Press Release
*CV

*ARTISTS STATEMENT(法貴氏による「作品をみるための手引き」です。)

【関連動画】
eN arts conversation 20221104
Nobuya Hoki and Minoru Shimizu
サムネイル

【過去の展示】
法貴信也 個展 (2015年 eN arts)