パワーショットのエルドラド
迫 鉄平 個展
2025年2月1日(土)- 2月28日(金)
会期中 金・土・日 12:00 – 18:00 開廊
アポイントメント承ります
機材協力 : キヤノン株式会社
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eN artsでは 2025年2月1日から2月28日まで 迫鉄平個展「パワーショットのエルドラド」を開催いたします。
2016年 清水穣氏キュレーションによるshowcase#5(写真および動画作品に特化したグループ展シリーズ5回目)にて 初めてeN artsで展示した迫鉄平。以来彼の活躍は目覚ましく、私は彼が展覧会やSNSで発表する作品に注目して参りました。中でも迫が Instagram ( @teppei_sako )で発表する「パワーショットのエルドラド」のファン。そこには誰もが目にしている日常の光景を彼の目線で切り撮ったスナップショット10枚が1週間ごとにまとめられ、その1週間の出来事と共にアップされており、私はそれらの投稿をあたかも自分自身の絵日記を見返すかのように楽しんでいます。
2016年showcase#5で清水氏がプレスリリースに寄せたテキストに「スナップ写真をみるとき、我々はその写真の光景の手前にいたはずの写真家を見ているのでしょうか?-中略-写真を『見る』とは、自分の外に出て、写真家に重なることに他なりません」と ありましたが、それは、よそのひとの絵日記を、まるで自分の絵日記を飽くことなく見返すことが出来る という事に通ずるのかもしれません。ある時ふと「パワーショットのエルドラドでeN artsを埋め尽くしたい」という衝動に駆られ、迫氏に今回の個展開催の依頼をしました。
撮影の時は「あ!」と「お!」しか考えていない と言う迫。2015年キヤノン写真新世紀でグランプリ賞を受賞し、2016年に新作「剣とサンダル」を発表した際のINTERVIEWでは次のように語っていました。「『Made of Stone』以降の映像作品は、写真を撮ろうとする「あ」という決定的瞬間、シャッターチャンスを「あ- – -」と引き伸ばし時間を挿入するものでした。一方で、『剣とサンダル』の写真作品は、カメラを向ける対象に同時多発的に複数の「あ」があって「あ、あ、あ、あ」と細切れの決定的瞬間を挿入するものです。」
本展では「パワーショットのエルドラド」の為に撮り溜めた70,000以上のスナップ写真から選ばれたものを軸に、そこから創り出された写真及び映像作品が展示される予定です。
迫鉄平の 「あ!」から「あ- – -」「あ、あ、あ、あ」への 変身ぶりを eN artsにて お楽しみ下さい。
eN arts | ロウ 直美
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迫鉄平『パワーショットのエルドラド』|ステートメント
『パワーショットのエルドラド』は2022年8月に開始した、日々撮影したスナップ写真の一週間分を一度見返してその中から10枚を選定し、スクエアにトリミングをしたものを日記のようなテキストとともにInstagram上で発表するプロジェクトである。
「パワーショット」は普段のスナップ撮影に使用しているキヤノン製のコンパクトデジタルカメラの機種名で、2020年の4月から継続的に使用している。一方「エルドラド」は大童澄瞳著『映像研には手を出すな!』の作中で、主人公の浅草みどりおよび映像研の制作した4作目のアニメーション作品のタイトル『たぬきのエルドラド』から拝借している。「勧善懲悪」の否定というテーマにも共感を覚えたが、正直に告白すると、それ以上にその語感と耳障りの良さに刺激された。ハワード・ホークス監督作の『エル・ドラド』(1966年、パラマウント映画)は2024年8月23日に観たが、自分の取り組みとの接続ポイントは見出せず、映画自体もあまり面白くはなかった。
美大時代に版画を専攻していて、版画制作には兎にも角にも下絵(原画or原稿)が必要であるということ、それらが無いと制作は始まらないということを学んだ。所属する研究室の担当教員が毎日膨大な量のドローイングに取り組むと同時に、常にカメラを持ち歩きスナップを撮影する様子を間近に見ていた事からも多くを学んだような気がする。大学を卒業し、映像や写真を使って作品を制作していく中でもそのことは常に頭の片隅に引っかかっていて、それが日々をどのように消費するかという問いを立てることに繋がり、2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法「緊急事態宣言」が、2020年4月7日に発出され13日から在宅勤務が命じられた際に、毎日外出してスナップ写真なり映像素材なりを撮影することを解答として日々の取り組みが始まった。
写真作品であれ映像作品であれ、作品の制作をスタートさせる際に、ストック素材が一定量あることとそれを見返すことに時間を費やすことで、自ずと自作への変化が現れた。2021年に制作を開始した「LCD Zombies」のシリーズも、2023年に制作を開始した「Slivers on the Window」のシリーズも、その基底にあるのは、スナップ写真とスナップ写真の組み合わせかたの問題でもある。
京都での8年ぶりの個展となる本展では、『パワーショットのエルドラド』の発表を続けている期間に撮影したスナップ写真(2024年12月15日時点で71,092枚ある)を中心に、それらを素材として制作した写真作品や映像作品、自費出版本『CHILL TOWN』の展示を予定している。「写真を見返すこと」がどのように作品に結実するのか、ご覧いただきたい。
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